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54時間の恐怖 所持金10円、やりたい放題の逃走劇 (産経新聞)


【衝撃事件の核心】 「受刑者が逃走しています、気をつけて下さい…」。けたたましいサイレンの音とともに、広島市の広島港にほど近い住



▽つづきはこちら


運動する51人の受刑者に対し、監視する刑務官は3人。



異変に気づかなかったということは、やはり3人では足りないのだろうな。

刑務所内で、犯罪者の良心に期待するなんてひどい冗談もあったものだが。

でもまあ仕方ないよね。世間では公務員を減らせ減らせと大合唱しているし。


以下、全文。


産経新聞 1月22日(日)12時34分配信

【衝撃事件の核心】

 「受刑者が逃走しています、気をつけて下さい…」。けたたましいサイレンの音とともに、広島市の広島港にほど近い住宅街に不気味なアナウンスが流れた。殺人未遂などの罪で懲役23年の刑を受け服役していた中国籍の李国林(りこくりん)容疑者(40)=逃走容疑などで逮捕=が、高さ約6メートルの刑務所の塀を乗り越え脱走し、広島市民のみならず全国民を戦慄させた。関西から関東までの広範囲にわたって暗躍した窃盗団のリーダー格だった李容疑者。忍び込んだ民家や会社事務所で中国へ電話するなど、李容疑者の逃走劇はやりたい放題の連続だった。

 ■塀を跳び越え、屋根を伝い…

 1月11日午前の脱走直前、李容疑者は刑務所内のグラウンドにいた。運動する51人の受刑者に対し、監視する刑務官は3人。李容疑者はこっそりグランド隅の用具入れの陰に身を潜めた。

 刑務所の監視カメラには物陰から顔を出し隙をうかがう李容疑者の姿が残っている。しかし、刑務官は異変に気付かなかった。李容疑者は用具入れの上によじ登り、高さ2・6メートルの内塀を乗り越えた。

 「塀の外」に出るためには、さらに高さ約6メートルの外塀を越えなければならない。しかしこの時、外塀は改修工事中で、足場が設けてあった。エアコンの室外機に乗り、排水パイプを伝って管理棟の屋上に上った李容疑者は、東側の外塀に向かい、足場を使って脱走。そのまま近くのビル陰に姿を消した。市民にとって54時間に及ぶ恐怖の始まりだった。

 広島刑務所によると、刑務所内には98カ所に監視カメラがあるが、チェックする職員はたった1人。午前10時40分ごろ、運動の終わりに点呼をとった刑務官が初めて李容疑者の姿がないことに気付いた。だが、刑務所が110番通報したのは約45分も後の同11時25分だった。それも近隣住民からの通報を受け、ようやく警察に連絡していた。

 「刑務所内にいると思い、所内を捜索していた。まさか脱走しているとは思わなかった」

 刑務所側はこう釈明したが、結果的に初動の遅れが大きく響いた。

 ■オウム以来の特別手配

 李容疑者は、郵便局やパチンコ店で金庫破りを重ねた日本人と中国人混成の窃盗団のリーダー格だった。岡山市内で平成17年5月、職務質問をしようとした警察官にいきなり発砲するという殺人未遂事件を起こし、さらに岡山県警に逮捕された後も警察官の隙をみて護送車を強奪するなど、懲役23年の判決を受けた「危険人物」だった。

 刑務所から通報を受け、広島県警はただちに周辺一帯に緊急配備。李容疑者の捜索を始めたが、通報が脱走から約45分もたっていたことから捜索は難航。警察庁が7年のオウム真理教元信者以来となる特別手配をかける異例の事態へと展開した。

 ■ビール缶からDNA

 広島県警が李容疑者の足取りをつかんだのは12日午後だった。刑務所から西へ約1・5キロの広島市西区南観音で空き巣被害にあった民家から、李容疑者が侵入した痕跡が確認された。

 民家は風呂場の窓格子がひきはがされ、玄関の靴棚がバリケードのように移動させられていた。

 脱走時に作業服を脱ぎ捨て下着姿だったはずの李容疑者は、この民家で衣服や食料をあさっていた。県警は居間に残されたビールの空き缶に残った唾(だ)液(えき)から、李容疑者のDNAを検出した。

 「逃走犯は付近に潜んでいる」

 緊張感は一気に高まった。脱走3日目の13日、県警は“勝負”をかけた。南観音を中心に重点地区を指定し、約500人の捜査員を集中的に投入。中州状の地形となっている一帯のすべての橋に捜査員を配して封じ込め、空き家をしらみつぶしに捜索するローラー作戦を展開した。

 一帯から事務所荒らしや車上狙い、侵入された跡のある空き家など、李容疑者の関与が疑われる痕跡が次々と浮上した。

 ■40回の国際電話

 脱走から54時間が経過した13日午後4時半ごろ、刑務所から北へ2キロの商店街を警戒していた私服の女性捜査員は、横断歩道の先に立っているニット帽とマスクで顔を隠した不審な男に気づいた。

 ニット帽は空き巣の被害品と酷似している。捜査員は少しの間、男の様子を観察し、すぐに確信を持った。着ていたジャンパーに刺繍(ししゅう)されていた所有者の日本人名で呼びかけた。すると、男は慌てる様子もなく振り返り「李国林です」と名乗ったのだ。

 マスクを外した李容疑者の顔は手配写真よりやつれ、疲れ切った様子だった。

 「3日も何も食べていない」

 「刑務所へ帰る」

 片言の日本語でこう話し、ポケットに隠し持っていた果物ナイフを差し出したという。

 しばらくすると、あたりにけたたましいサイレンが響きわたり、パトカーが6台、7台と集結。騒然とする中、李容疑者はパトカーへ乗り込み、広島中央署へと連行された。

 あっという間の幕切れだった。李容疑者の所持金は10円硬貨1枚だけだったという。

 通訳を介して行われる取り調べで、李容疑者は捜査員との雑談には応じるものの、事件についての供述は拒んでいるとされるが、県警の捜査が進むにつれ、逃走後の行動が明らかになりつつある。

 県警によると、李容疑者は民家に空き巣に入り、ニット帽やシャツ、子供用リュックサック、マスク、女性用ハーフコート、トレーニングパンツ、軍手、歯ブラシや歯磨き粉など約50点(時価計約4万3千円)を盗み出していた。

 さらにこの民家から西へ数百メートルの会社事務所に忍び込み、工具を使って金庫をこじ開けようとした形跡を残しており、逮捕時に着ていたジャンパーなどを盗んでいた。

 李容疑者は空き巣などを繰り返し、衣服や食料を調達していただけでなく、ビール数缶を飲み、侵入先で計約40回も国際電話を試みていた。電話した先は発信履歴から、祖国の中国とみられる。

 李容疑者は昨年12月に届いた親族からの手紙で母親の体調不良を知り、刑務官に「中国へ帰りたい」と漏らしており、県警は動機につながる可能性があるとして調べている。

 ■脱走は「想定外」

 脱走事件の恐怖は市民生活に重くのしかかった。

 「何度も戸締まりを確認した」

 「不安で夜眠れなかった」

 刑務所には怒り交じりの苦情電話が数十件殺到したという。

 広島市中区の繁華街・流川で長年、飲食店を営む男性(64)は「水曜日はノー残業デーということもあっていつも大繁盛だが、逃走事件のあった11日はたった4人。次の日のお客はさらに減って1人。まったく商売になりませんでしたよ」と憤った。

 脱走直後の会見で、刑務所幹部は「逃げることは想定外だった」と話した。刑務所では、過去に脱走事件が起きたことはなく、幹部が「態勢の不備があった」とあっさり認めざるをえない慢心ぶりだった。

 刑務所の隙を突かれるケースとして、鹿児島県湧水町の鹿児島刑務所で、資材搬入で出入りしていた運送会社の男性が刑務所内の映像をインターネットの動画サイトに投稿し、一時公開されていたことが17日に判明した。

 また、大阪府茨木市の浪速少年院では入所者の少年が昨年8月に脱走。少年院からの脱走は刑法の逃走罪に該当しないため、大阪府警は建造物損壊の容疑で全国に指名手配、9月になって堺市内で少年を発見し逮捕した。少年は建造物損壊の非行事実で送致され、大阪家裁堺支部は10月、少年を中等少年院送致とする保護処分を決定している。

 刑務所などを舞台とする事件が相次ぐ中、監視体制の強化が求められている。

最終更新:1月22日(日)17時10分


引用元:
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120122-00000512-san-soci

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